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2024.7.5
製造業の多くの企業では、「現地」「現物」「現実」をまとめた「三現主義」を基本的な行動指針にとらえています。三現主義に基づいてもとづいて行動を起こすことで、さまざまなムダを省き、高品質な製品の製造と生産性の向上を両立できます。
一方で、三現主義を「時代遅れ」とみなす人たちもいます。この記事では、三現主義の概要とメリット、導入事例、三現主義から派生した「五ゲン主義」の概要に加えて、三現主義が「古い」と言われる理由について、紹介します。
目次
三現主義とは、「現場」「現物」「現実」の3つを重視する考え方のことです。主に製造業で取り入れられている考え方ですが、製造現場だけでなく、設計開発や営業などにおいても効果を発揮するものです。
三現主義は、さまざまな業務に適用できる汎用性の高い考え方です。そのため、製造業以外の業種においても取り入れられています。三現主義を構成する「現場」「現物」「現実」の概要は以下の通りです。
「現場」は、机上で物事を考えるのではなく、製造現場や実際に製品が使用される「現場」に足を運んで情報を取得することを意味します。
もちろん机上でも情報を集めることはできますが、現場に足を運ばなければ気づけないことが数多くあります。
現場を知らないまま製品やサービスの開発を進めてしまうと顧客ニーズを取り逃がし、製品を市場に流通させた際に思ったような評価を受けられないことがあります。製品の製造においては、現場でこそ得られる情報を得ることが何より重要です。
「現物」は、製品や部品そのもの(=現物)を確認することを意味します。
製品に不具合が生じた場合、実際に不具合を起こした製品を確認しなければ分からないことがあります。
たしかに同じ品番・同程度の使用量の製品で不具合を検証・シミュレーションすることはできます。しかし、製品にはばらつきが付きものであり、使われ方も違うものです。不具合を正確に把握するためには、現物を確認することがとても重要です。
「現実」は、現場や現物にもとづいて状況を現実的にとらえることを意味します。
何らかの課題が生じた場合、適切な対策を立案・実行するためには「いま現に起こっていること=現実」を正確にとらえる必要があります。思い入れや思い込みは、物事を現実的にとらえることを難しくしてしまいます。現実を正確にとらえて、改善に活かしましょう 。
企業によっては三現主義を「現場」「現物」「現実」以外の単語の組み合わせで表現する場合もあります。
たとえば、「現場」とほとんど同じ意味で「現地」という用語が使われることがあります。また、「現認」という用語が使われる場合もあり、これは実際に現場に出て確認することを意味します。
このように、「三現主義」という言葉を使っていても、用語の組み合わせや定義が違う場合があります。自社で「三現主義」が使われている場合には、それぞれの用語と定義を事前に確認しておくとよいでしょう。
三現主義を徹底させることで、さまざまなメリットが得られます。
実際にトラブルが発生した現場、トラブルにつながった「現物」を確認することでトラブルの発生要因を速やかに確認できます。発生要因が明確になれば対応策の検討・実行もスムーズに行えるため、トラブルな速やかな解決へとつながります。
設計開発や製造現場の現場に直接足を運んで、現場で生じている課題を冷静にとらえることで、どのようなムダ・ムラが発生しているかを、実感を持って把握できます。把握されたムダ・ムラを排除することによって、製品開発や製造工程における余計なコストも削減でき、コスト管理を最適化することができます。
現場に足を運んで顧客ニーズを把握して製品の規格・開発を行うことで、市場の流れを見逃さない、顧客ニーズに沿った製品開発が行えます。
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三現主義に「原理」と「原則」を加えたものが「五ゲン(五現)主義」です。
「原理」は、物事が成立する法則やメカニズムのことを意味し、「原則」は多くの場合にあてはまる規則や決まり事を意味します。
「それがなぜ成立するのか=原理」「多くの場合はどんな結果になるのか=法則」を「三現主義」に加えることで、五ゲン主義では三現主義以上に深く、効果的な問題解決・改善につなげることができます。
近年、三現主義や五ゲン主義が「古い」と言われることがあります。その理由とはどのようなものでしょうか?
現在、さまざまな領域で技術開発が進んでいます。特にセンサーやカメラなどのIoT機器でその傾向は顕著です。今後ますます小型化・高性能化は進んでいくと予想されています。また、生産管理システムや調達システムが高性能化し、システム間でのスムーズな連携が実現しています。その結果、生産計画や在庫計画の精度も向上しています。
これらDX関連の技術開発が進んだことで、実際に現場に足を運んで現物を確認せずともIoT機器から精度の高い情報を得られるようになりました。また、システムで正確に管理された情報から、現場に実際に向かわずとも状況をリアルタイムに把握できてしまいます。
このようにDXが進んだ結果、一部では三現主義や五ゲン主義は不要ではないかと言われています。
また、コロナ禍を機にリモートワークが普及したことも三現主義や五ゲン主義が「古い」と言われる要因に挙げられています。
一方で、DXやリモートワークが普及した現在にあっても、三現主義や五ゲン主義は必要という考え方が根強く残っています。
高性能化したセンサーやカメラの導入によって遠隔から検知・把握できる情報が増えても、現地・現物で実際に確認して五感から得られる情報に比べると、量質ともに限定的と言えます。
そのため、DXやリモートワークの普及によって三現主義や五ゲン主義が不要になるという考え方は正しいとは言えません。むしろ、三現主義や五ゲン主義で得られる情報の質をこれまで以上に高めるためにDXやIoTなどの新たな技術を活用する、という考え方をとるほうが望ましいでしょう。
たとえば、現地・現物で得た情報をセンサーによって数値化すれば、感覚的な知見を定量データとして蓄積でき、将来的な製品企画や開発に活かせるようになるかもしれません。このように、三現主義や五ゲン主義と新しい技術を組み合わせて活用の用途を広げていくと良いでしょう。
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三現主義や五ゲン主義の導入によって、大きな成果を上げた事例を紹介します。
トヨタ自動車は、創業者である豊田佐吉氏が豊田自動織機製作所を創業した頃から、経営層が主導して現地現物主義を率先して実行していることで知られています。
これまでは現地を訪れ、現物を目の前にして議論することが当たり前のように行われてきましたが、コロナ禍によってその「当たり前」の実現が難しくなりました。そのため、必ずしも全てを現地・現物で確認するのではなく、「時間をかけてでも現場・現物で確認すべきものは確認する」「移動時間を様々な人とのコミュニケーションにあてたほうが良い場合にはリモート対応にする」など柔軟な対応へと変化しています。
トヨタ自動車では、トヨタ生産方式の中核であるジャストインタイムや自働化などとともに、三現主義もまた時代に合わせて改善しているのです。
本田技研工業も、三現主義を重要な考え方の1つとして掲げています。
1992年に、ホンダグループで働く仲間の道しるべとして冊子「ホンダフィロソフィー」が発刊されました。ホンダフィロソフィーには5つの運営方針が示されていますが、三現主義はその中の「不断の研究と努力を忘れないこと。」において言及されています。
研究と問題解決のための重要な考え方として三現主義があり、それに基づいて以下の行動を取ることが重要とされています。
三現主義の結果を積み重ねることで、問題解決の知恵が生み出されるのです。
国内農機メーカー大手のクボタでは、五ゲン主義の教育を徹底して行っています。全国の工場で生産性と品質を高いレベルで両立させるための改善チームが編成されています。そこでは五ゲン主義に基づいて以下の7つのムダが定義され、見つけ次第、改善が行われています。
これらのムダを改善することで、生産性と品質の高いレベルでの両立が期待できます。
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