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【解説】「ITSS(ITスキル標準)」とは?7段階のレベルと11の職種のご紹介

ITSS(ITスキル標準)とは?

ITSS(IT Skill Standard/ITスキル標準)は、日本における教育の指標として、高度な専門知識と技術を持つITプロフェッショナル人材の育成のために作られました。この記事ではITSSの概要と、実際にスキルマップなどを使って企業が運用していく際のポイントをご紹介します。

ITSS(ITスキル標準)の定義

ITSSとは、高度IT人材育成を目的として作成された、教育・訓練を行う際の指標です。IT領域のサービスを提供するうえで必要なスキルが明らかにされ、体系化されています。「IT Skill Standard」の略称であり、「ITスキル標準」とも呼ばれます。

ITSSは2002年12月、経済産業省により策定・公表されました。2004年以降は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)ITスキル標準センターが管理しています。

ITSSでは2021年現在、IT領域の職種を11種類に分類し、それをさらに38種類の専門分野にわけて定義しています。そのうえで個人の能力や実績に基づいた、7段階のレベルを設定。各スキルとキャリアの段階が細分化されており、企業が人材育成の指標として活用する場合は、次の図のようなキャリアフレームワークを使って管理されます。

ITSSが策定された目的と背景

2000年代以前よりIT産業が急速に発展し、ビジネス環境が大きく変化する中で、IT関連企業では高度な専門性を持つ人材が求められるようになりました。より多様化する顧客ニーズを満たし、企業としての競争力をさらに強化するために、多くの企業が高度IT人材の育成と社内体制の構築に着手する必要に迫られたのです。

また当時の日本政府も、国家戦略の一環としてIT産業の発展を推し進めていました。高度IT人材の育成は、その重点課題の一つとして挙げられていました。

効果的に人材育成を行っていくためには、ロールモデルとなるキャリアパスや、その過程で身に付けるべきスキルが明確になっていなければなりません。しかし当時のIT産業において、具体的かつ客観的な視点から測れる、実用性の高いスキル指標が存在しませんでした。その課題を解決するために、策定されたのがITSS(ITスキル標準)です。

ITSSにおける“スキル”の定義

高度IT人材に求められるスキルは、IT技術に関するものだけではありません。専門技術についての知識があり、資格を有しているとしても、必ずしもその人に実務能力があるとは言えないためです。専門的な知識や技術に加えて、関係者とのコミュニケーションや交渉をスムーズに進める力や、リーダーシップ、プロジェクトマネジメント、後進への教育・指導など、幅広いヒューマンスキルが必要となります。

そのためITSSでは、すべての職種に共通するスキル項目として、いくつかのヒューマンスキルが盛り込まれています。さらに独自に「達成度指標」を設けており、実務における経験や実績を客観的に評価するとしています。

ITSSが規定する7段階のレベル評価

ITSSにより分類された11の職種と38の専門分野(横軸)に対し、縦軸には7段階のレベルが設定されています。評価指標としては、情報処理技術者試験の合格などと合わせて、スキルの習熟度合や実務経験、実績などの達成度指標が定められています。

レベル   各レベルの定義
レベル1 情報技術に携わる者に最低限必要な基礎知識を有する。スキル開発においては、自らのキャリアパス実現に向けて積極的なスキルの研鑽が求められる。
レベル2 上位者の指導の下に、要求された作業を担当する。プロフェッショナルとなるために必要な基本的知識・技能を有する。スキル開発においては、自らのキャリアパス実現に向けて積極的なスキルの研鑽が求められる。
レベル3 要求された作業を全て独力で遂行する。スキルの専門分野確立を目指し、プロフェッショナルとなるために必要な応用的知識・技能を有する。スキル開発においても自らのスキルの研鑽を継続することが求められる。
レベル4 プロフェッショナルとしてスキルの専門分野が確立し、自らのスキルを活用することによって、独力で業務上の課題の発見と解決をリードするレベル。社内において、プロフェッショナルとして求められる経験の知識化とその応用(後進育成)に貢献しており、ハイレベルのプレーヤとして認められる。スキル開発においても自らのスキルに研鑽を継続することが求められる。
レベル5 プロフェッショナルとしてスキルの専門分野が確立し、社内において、テクノロジやメソドロジ、ビジネスを創造し、リードするレベル。社内において、プロフェッショナルとして自他共に経験と実績を有しており、企業内のハイエンドプレーヤとして認められる。
レベル6 プロフェッショナルとしてスキルの専門分野が確立し、社内外において、テクノロジやメソドロジ、ビジネスを創造し、リードするレベル。社内だけでなく市場においても、プロフェッショナルとして経験と実績を有しており、国内のハイエンドプレーヤとして認められる。
レベル7 プロフェッショナルとしてスキルの専門分野が確立し、社内外において、テクノロジやメソドロジ、ビジネスを創造し、リードするレベル。市場全体から見ても、先進的なサービスの開拓や市場化をリードした経験と実績を有しており、世界で通用するプレーヤとして認められる。
※引用元:IPA「ITスキル標準はやわかり」-人材育成への活用-(V3 2011対応版), P27より
https://www.ipa.go.jp/files/000025745.pdf

ITSSが分類する11の職種

ITSSでは、IT産業における職種を次の11種類に分類しています。

職種 主な業務内容
マーケティング         顧客ニーズと市場動向を予測し、販売チャネル開拓などの戦略を立て、実行する。
セールス 顧客の課題に対して最適な提案を行い、 良好な関係性を築いて顧客満足度を高める。
コンサルタント 顧客のビジネスに対する提言・助言を通じて、IT投資などの経営判断を支援する。
ITアーキテクト ハードウェア、ソフトウェア関連技術を活用し、高品質なITアーキテクチャを設計する。
プロジェクト
マネジメント
プロジェクトの提案から実行、クオリティ管理などの役割を担う。
ITスペシャリスト ハードウェア、ソフトウェア関連技術を活用し、顧客の環境に最適なシステム基盤の設計と構築、導入などまで責任を持つ。
アプリケーション
スペシャリスト
アプリケーション開発やパッケージ導入に関する専門技術を活用し、設計から開発、導入および保守まで実施する。
ソフトウェア
デベロップメント
ソフトウェアエンジニアリング技術を活用し、マーケティングに基づいたソフトウェア製品の企画や設計、 開発を行う。
カスタマーサービス 専門技術をもとに、顧客の設備に合致したハードウェアやソフトウェアの導入とカスタマイズ、保守および修理を担う。
ITサービス
マネジメント
システム運用関連技術を活用し、システム全体の安定稼働を目指す。
エデュケーション 専門技術をもとに、研修カリキュラムなどの設計や開発、運営、評価などを実施する。

ITSSを組織で運用する際のポイント

ここまで、ITSSの概要についてご紹介してきました。では実際、ITSSを企業で効果的に運用していくためには、どのようなポイントを抑えればよいのでしょうか。

1)導入する目的を明確にする

ITSS活用の目的は企業によってさまざまです。そのため活用の際は、まず大前提としてITSSを自社で使用する目的を明確にします。ITSSはあくまでもITスキルに関する「ものさし」にすぎないため、導入の際は自社のビジネス戦略に基づき、明確な目的をもって活用する必要があります。

例1) 社内にいる人材のスキルを細かく把握して網羅的なスキルマップを作成し、今後の経営計画に活かす   例2) 社員一人ひとりが自らのキャリアデザインを行いやすくし、社員のモチベーション向上につなげる

2)経営陣と社員が一緒にプロジェクトを進める

ITSSを導入する際は、社内プロジェクト化して経営陣と社員とが一緒になって進めることが理想です。トップダウンで行うことも可能ではありますが、人事や総務、経営企画などはもちろん、実際に教育や研修を行うことになる現場の開発、営業のメンバーも含め、部署横断的なプロジェクトとして実施することをおすすめします。関わる社員が当事者意識を持って取り組むことで、運用による成果が一層高まります。

3)一時的な把握に終わらず、運用フローを決める

ITSSの分類する職種と専門分野、個人のレベルと、それぞれに定められたスキル項目に沿って現在地を一時的に把握するだけではなく、継続的な運用をしていけるよう、あらかじめフローを定めておきます。スキルマップ(力量表)を活用して各スキルの保有者を一括管理し、社員の異動や入退社はもちろんのこと、個人のスキルを定期的に見直してスキルマップを更新していくことが重要です。この運用を継続できれば、自社組織が有する人材の能力を常に可視化し、適切に把握・マネジメントすることができます。

ITSSを活用し、効果的な人材育成を行うには

最後に、ITSSを活用して効果的な人材育成を行うためのポイントをご紹介します。

1)経営戦略に基づいた人材育成・採用方針を策定する

ITSSを導入し、効果的な人材育成を行っていくためには、自社の経営戦略にそった人材育成方針および、採用方針を明確にしておくことが重要です。例えば10年後に企業として目指す地点に到達するためには、現在どんな人材が足りていないのか。今後、どんなスキルを有する人材が必要なのかをリストアップし、育成計画に落とし込んでいきます。

2)計画的な育成計画を作る

ITSSでは、一つひとつの職種と専門分野ごとに必要とされるスキル項目と知識項目が整理されており、そのスキルと知識を効率的に習得していくための「研修ロードマップ」が作られています。この標準化されたロードマップを使い、自社の経営戦略と人材育成方針に合わせた教育・研修メニューを作成しましょう。

スキルマップなどを使って自社内の現状(誰がどのスキルを有しているか)を把握した後、研修ロードマップに基づいて、各個人に対する中長期的な育成計画を作成します。

まとめ:ITSSは、企業の経営戦略に沿った設計と運用が重要

ITSSはあくまでも標準的に定められた指標であり、すべての企業に必ず当てはまるものではありません。企業が導入して運用していく際は、自社の経営戦略に沿って仕組みを整え、計画的な運用を行っていくことが重要です。

従業員のスキルについて、システム上で一元管理ができるクラウドサービス「SKILL NOTE」なら、各社の実情に合わせてスキルマップを設計し、効率的な運用をすることが可能です。

自社に必要なスキルの整理と体系化からご相談に乗ることもできますので、ITSSの導入・活用をご検討の企業の方、また人材育成にスキルマップを活用したいとお考えの方は、一度お問い合わせください。


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