ナレッジ
2024.4.24
企業が安定的に成長を続けていくために欠かせないのが後継者育成(サクセッションプラン)です。しかし、その必要性を認識していても、何から手を付けていいかわからずになかなか実行に乗り出せない企業も多いのではないでしょうか。
この記事では、後継者育成が必要とされる理由とメリット、成功事例、そして実行の手順を徹底解説していきます。
「後継者育成(サクセッションプラン)」とは、「将来経営を担う幹部人材の育成計画、あるいはその施策」のことを指します。
中小企業や一部の大企業では同族経営が行われていることも多く、幹部候補は親族から選ばれる傾向にある一方、大企業の大部分では親族以外から幹部候補を採用することが一般的です。
いずれの場合においても後継者育成は、企業経営の安定と継続のために必須と言えます。
なぜ企業は後継者育成に取り組むのでしょうか? ここでは、いま注目を集める後継者育成に企業が力を入れる理由・目的を紹介します。
どれほど優れた経営者であっても、いつまでも経営者として仕事を続けられるわけではありません。
時代の流れとともに外部環境が変化し、これまでとは異なる能力が求められるようになったり、加齢によって判断力が鈍ったりすることもあります。
また、年齢を重ねれば重ねるほど健康上のリスクも大きくなっていきます。企業が安定して成長を続けていくためには、不測の事態に備えて安心して経営を任せられる人材を計画的に育成していく必要があります。
優秀な後継者の育成には多大な時間がかかります。そのため、できるだけ早い段階から計画的な後継者育成に取り組まなくてはなりません。
東京証券取引所は、企業統治の原則であるコーポレートガバナンス・コードを定めています。
コーポレートガバナンス・コードとは、会社が透明性を持ち、公正かつ迅速で、果断な意思決定を行う仕組みであるコーポレートガバナンスを実現するために、主要な原則についてまとめたものです。
後継者育成は、コーポレートガバナンス・コードの原則4に記載されています。具体的には、企業の取締役会に対して、「経営理念や経営戦略を踏まえ、CEOなどの後継者育成計画の査定・運用に主体的に関与し、十分な時間と資源をかけて取り組むべき」と記載されています。
このように後継者育成は、コーポレートガバナンス・コードでも言及される企業にとっての重要課題であると言えます。
後継者育成に未着手、あるいは失敗した場合には、企業経営に大きなリスクが生じる可能性があります。
例えば、突発的な事象によって緊急的に経営者を交代する必要が生じた場合、実力不足であったり求心力を欠いた人材を経営者として登用せざるを得ません。
その結果。後継の経営者は、経営者として適切な判断ができず、経営不振を招いてしまう可能性があります。また、求心力が欠けていることで会社に見切りをつける従業員が増え、離職者が増加してしまう恐れも生じます。
計画的に後継者育成に取り組まない場合には、顧客や株主などのステークホルダーからの信頼を失い、経営環境が悪化してしまうリスクがあることを把握しておきましょう。
計画的に後継者育成に取り組んだ場合には、「会社を永続的に成長させる仕組みを構築する」という本来の目的とは別のメリットも生じます。
計画的な後継者育成を行い、成功に導くことで、従業員に対して「活躍すれば幹部として登用され、結果を残せること」を実績として示すことができます。
その結果、上昇志向があり、積極的に仕事に取り組んでいる従業員の更なるモチベーション向上につながります。
後継者育成の成功は外部評価の向上にもつながります。未来を見通した安定的な成長を会社の外部に向けてアピールすることができるため、ステークホルダーからだけではなく、新卒・中途などの採用候補人材からの評価向上も期待できます。優秀な人材を採用しやすくなるでしょう。
後継者育成計画の策定・実行をスムーズに進めていただくために、ここでは後継者育成の成功事例を4つ紹介します。自社の状況に合わせて、ぜひ参考にしてみてください。
トヨタ自動車は、長年社長を務めていた豊田章男前社長の後継者育成のために、従来設定されていた副社長のポジションを廃止し、企業経営に必要な各機能を執行役員が勤める体制に変更しました。
また、対象製品別のカンパニー制を採用し各カンパニーにプレジデント職を設定しています。各カンパニーにおける経営判断をプレジデント職に担わせることで、組織のトップとしての経験を積むことを可能にしました。
さらに、将来的に経営幹部や重要なポジションに就くことが期待される従業員に対して、子会社で社長や役員、より裁量の多い職位に就かせることで幹部人材として必要な経験を積ませています。
カゴメは、人的資本経営の先進企業として知られており、これまでも「ジョブ型人事制度」への移行や、取締役への「業績連動報酬制」の導入などを他の企業に先駆けて導入してきました。
カゴメの次世代経営者育成では、重要なポジションにおける人材要件の明確化と公開を行い、候補者の育成を進めています。
また、社内研修では、役員に対する研修をもっとも厳しくし、役員としての資質をチェックしています。さらに従業員のキャリア自律をサポートする「HRBP(human resources Business Partner)」という職責を設けて現場のエース人材を登用。「人材育成担当」として人に寄り添う経験を積ませています。
帝人では、役員人事に関する透明性の向上のため「指名諮問委員会」を設置し、CEOの交代および後任者の推薦など重要事項の取締役会への提言を行っています。
後継者育成に関しては、経営者育成制度『ストレッチ』を1999年に設置。後継者の推薦を役員自らが行い、人事委員会において選抜された対象者を審議するという仕組みを取っています。海外ビジネスの経験などが特に評されるようです。
なお、『ストレッチ』は、対象者をSTRETCH 1(50代)・STRETCH 2(40代)・STRETCH 3(30代)の3層に分け、段階に応じて外部機関による研修機会も設けながら3年かけて後継者育成していくのが特徴です。
コマツは、「コマツウェイ」が制定された2006年から「常に後継者育成を考えること」をリーダー層の重要な行動指針に置いています。
コマツにおける後継者育成は、
①人事諮問委員会における社長候補となる人材要件を明確にし、
②毎年実施されるサクセッションプランを通して、
③主要な役職の後継候補者が選定される
上記①~③のプロセスで進められています。
なお、コマツは、後継者育成のポイントとして次の3つを挙げています。
①修羅場を経験させることで、困難に立ち向かう強い意志力を身に付けさせること
②利害の反する当事者をまとめる組織運営能力を養わせること
③不正をゆるさない、コンプライアンス意識を付けさせること
後継者育成を上手に進めるためにはいくつかのポイントがあります。ここではポイントを2つに絞って紹介します。
上場企業の場合、優秀な従業員も数多く在籍していることでしょう。しかし、優秀であるからと言って必ずしも幹部候補として適任だとは限りません。
そのため、候補者選定の際には能力の良し悪しだけで判断するのではなく「なぜその人材を選定するのか」といった人材要件を明確にして選出する必要があります。
手順としては、まずは会社の将来を担う幹部候補とは「どのような能力、経験、人間性を備えた人なのか」を定義します。そして定義された人材像に必要となる「能力」を棚卸し、幹部候補者に求めるスキルや経験を明確にして進めていきます。
関連記事:人材要件とは? 作り方や定義と目的、採用ペルソナとの違い、フレームなどを解説
後継者を育成していくためには、社内・社外双方の取組みうまく使い分けて進めていくことが重要です。
社内での取組みとしては、複数の部門、職種をローテーションすることが有効な手段となります。複数の職場で実際の業務を経験することで社内に幅広い人脈も形成できます。
また、若いうちから積極的に経営に関わらせることも将来経営を担う人材として必要な経験を積ませる有効な手段です。経営者としての責任の取り方や企業運営に関するノウハウを学ぶことができます。
一方、社外での取組みとしては、外部セミナーを受講させ社内の業務だけでは得られない知識やスキルを習得させることが効果的です。また、子会社や関連会社などに出向させることも有効です。自社の活動だけでは得られない経験が積めますし、社外にも幅広い人脈を形成できます。
最後に、サクセッション・プランの策定から実行までの一連の流れを紹介します。ぜひ自社で進める際の参考にしてください。
まずは、企業の経営戦略を明確にします。サクセッションプランで育成する幹部候補者は将来の会社経営を担っていく人材です。そのため、経営理念や事業のミッション、中長期的な経営戦略を明確にして、プランを練っていく必要があります。
事前に経営戦略を明確にしておくことは、サクセッションプランを進めていくための必要最低条件であると言えます。
経営戦略を明確にしたら、サクセッションプランの対象とする重要ポジションの選定も進める必要があります。
例えば経営層の若返りも経営戦略のひとつとするのなら、CEO(代表取締役)だけでなく、役員、執行役員にまで対象となるポジションを広げてもいいかもしれません。
明確にした経営戦略を軸に、サクセッションプランの対象とするポジションと職務内容をはっきりさせておくといいでしょう。
経営戦略と軽戦略に紐づいた対象ポジションが定まったら、いよいよ幹部候補としてふさわしい人材の要件を定義します。
その際は、
・これまでの経歴と経験
・保有スキル、資格
・人間性(キャラクター)
・語学力
・リーダーシップ
・コミュニケーション能力
などの必要となる項目を抜けもれなくリストアップしましょう。
この作業を通して対象となるポジションごとの「人物像」は明確になり、人材要件は定義されます。
人材要件を定義ができたら、実際に幹部候補として育英していく候補者の選定を行います。
候補者選定の条件すべてを満たさない場合でも、今後の育成によって大きな成長が見込まれる場合には選定するなど、柔軟に運用することも重要です。
なお、選定する方法としては「自他による推薦方式」「アセスメント方式」「試験・研修による選抜方式」などがあります。自社に合った方法を選ぶと良いでしょう。
幹部候補として選定された人材一人ひとりに適した育成計画を作成する必要があります。
定義した人材要件と現在の能力を比較し、伸ばすべき能力・経験を決定します。候補者によってグループ企業への出向や外部セミナーの受講、バックオフィス業務への異動など、育成計画はさまざまです。
候補者に合った育成計画を策定し、スムーズに育成が進むように社内・社外を問わず関係各所への調整も事前しっかりと行っておきましょう。
候補者ごとの計画の策定が終われば、実際に実行します。実行の際には細かく進捗の確認ができるように、施策ごとにスケジュールを区切って行うのがいいでしょう。
また、一定期間計画を実行したあとで、しっかりと振り返りを計画の見直しを行いましょう。場合によっては大幅な計画の見直しが必要になるかもしれません。
そのような場合にも柔軟に対応できる世に、計画担当者は日ごろから関係各所と連携を密に取っておきましょう。
「Skillnote」で製造業の多能工化を実現!
●多能工化のメリット
●多能工化の進め方
●多能工化を成功させる3つのポイント
ナレッジ
2024.4.24
ナレッジ
2024.4.22
ナレッジ
2024.4.24
ナレッジ
2024.4.22
ナレッジ
2024.4.22
ナレッジ
2024.7.26