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【日刊産業新聞が解説】2023年の“鉄鋼”市場における重要トピックと新たな動向【セミナーレポート/後編】

鉄鋼市場におけるトピック後編

2023年3月15日に開催した特別セミナー「2023年の“鉄鋼”市場における重要トピックと新たな動向」。日刊産業新聞の編集局長である植木美知也氏をお招きし、鉄鋼業界における重要な話題をいくつも語っていただきました。

世界経済の低迷などにより鉄鋼需要が落ち込み、中国をはじめとした海外勢との競争が激化。さらに、脱炭素社会の実現に向けての取り組み。 日本が誇る技術力を活かし、量ではなく「質」によって、世界の鉄鋼市場で戦っていくためには?

セミナーレポート後編では、カーボンニュートラルや人材育成など、これからの鉄鋼市場を読み解く重要トピックについて解説いただいています。

1 カーボンニュートラルへの取り組み 

研究開発で世界をリードできるか

中長期的には、CO2排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルへの取り組みが、世界市場での競争の優劣に大きく影響するでしょう。日本は技術で先行し、新たな事業を育て、次世代の利益の柱を築く必要があります。いかに将来に向けた仕組みづくりに取り掛かるか。これも23年度の重要なテーマです。

鉄鋼業は、日本全国のCO2排出量のおよそ15%を占めています。生産工程で鉄鉱石から鉄分を還元して取り出すために石炭を使用するのが主な要因ですが、今後は石炭使用を抑えながら鉄鋼を製造する技術を開発していく必要があります。

「水素還元製鉄」の開発競争

現在、政府の資金支援を受けて「水素還元製鉄」の研究開発が進められています。これは水素を高炉に大量投入して鉄鉱石を還元する技術です。還元材を石炭から水素へと切り替えることでCO2排出量を大きく削減することができます。

世界的に見ても、大量の水素を利用して鉄鉱石を還元する技術はまだ確立されていません。日本の鉄鋼メーカーは世界に先駆けて開発に取り組んでいます。日本製鉄は大型高炉による水素還元を26年度に開始することを決定しました。しかし、中国を筆頭とする諸外国も水素還元製鉄の研究を進めています。開発競争はすでに始まっています。

戦略的な海外展開と鋼材の高付加価値化で収益確保

カーボンニュートラルの研究開発には莫大な費用が必要となります。だからこそ鉄鋼メーカーは、今後も引き続き製品の高付加価値化と価格改善を通して高収益体制を強化し、持続的に成長していかなくてはならないのです。もちろん、さらなる成長のためには戦略的な海外展開も重要です。鉄鋼メーカー各社の海外展開をめぐる動向を見てみましょう。

日本製鉄は、インドの鉄鋼企業を買収し、インドでの新しい製鉄所建設を計画しています。また、タイでも現地電炉メーカーを買収。海外での生産能力を増やし、グループ全体で1億トンの粗鋼生産能力を保持する計画です。

JFEスチールは、インド・米国・中国で現地鉄鋼メーカーと提携し、鋼材の製造供給拠点を充実化。また、ベトナムでは台湾系の製鉄所へも出資し、東南アジアでの鉄鋼供給網を確立させています。

神戸製鋼所は、米国・中国に自動車向けの鋼板工場を持っています。さらに特殊鋼棒鋼線材やアルミ板など非鉄関連の製品工場も海外で広く展開しています。

このように戦略的な海外進出を行うとともに、製品の高付加価値化による価格改善を今後も持続できるかどうか。その如何よって日本鉄鋼業の将来が決まってくると言っても過言ではありません。

2 さらなる成長を実現する人材戦略

人材の「多能工化」で生産性向上を目指す

女性に限らず男性も育児休暇を取ることは、今後ますます一般的になっていくでしょう。転職も珍しい時代ではありません。技術職、事務職を問わず「多能工化」のニーズが高まっています。

多能工化へ向けた取り組みは、特に工場を抱える中小の加工企業で広がっています。ある

鉄鋼加工メーカーでは事業承継に悩む企業を買収し、グループ内でノウハウを共有することで強い事業体を築いています。

たとえば、現場の職人がグループ企業に出向し、新たな技能や知見を習得する。そうすることで多能工化を図っています。繁忙期には別のグループ企業に応援を送り、受注機会の喪失を防ぐ。必要な技術を持った職人を必要なタイミングでグループ企業間において共有することで、グループ全体の生産性を向上させています。

DXの活用で技能の「見える化」と作業の「自動化」、生産の「効率化」

別の工場では業務を短期間でローテーションし、一人の職人ができる作業を増やすことで多能工化を促進しています。また、この工場ではデジタル技術の活用によって異常検知や設備の長寿命化を行っています。デジタル技術を用いた予防保全で従業員を守り、人材の定着にもつなげています。

このように近年ではDXを活用し、熟練技能者の技能の「見える化」を図ったり、作業の自動化・効率化を進めるケースが増えています。多様な人材が多様な業務を効率的に行えるよう、業務の仕組みの改善が進んでいます。

ダイバーシティへの取り組みも進む

多能工化やDX活用だけでなく、近年ではダイバーシティへの取り組みも進んでいます。ある大手商社では、総合職における女性社員の占める割合を20%台に引き上げ、外国籍の社員も毎年3~4人採用していると聞きます。

また別の鉄鋼系商社では、制度設計を見直しています。目指すべき姿が明確な「資格制度」、個人の成果を反映する「賃金制度」、若手の早期登用を可能にする「評価制度」などを構築し、社員の成長を促し、モチベーションアップにつなげているのです。

3 Q&Aコーナー

Q 2023年度の国内鉄鋼メーカーの動きの中で最も注目していることとは?

A グリーン鋼材の本格販売

グリーン鋼材の販売ですね。鉄鋼・高炉メーカー各社は、CO2排出量実質ゼロのグリーン鋼材の販売に本腰を入れそうです。昨年度、神戸製鋼が他社に先駆けて販売し、23年度には日本製鉄とJFEが販売を予定しています。

神戸製鋼のグリーン鋼材に関しては、すでに自動車などへの採用が始まっています。機能は通常の鋼材と変わりません。しかし、CO2排出量が実質ゼロであり、その分コストはかかっています。それをお客様がどのように評価するか。グリーン鋼材の価値をどのように位置づけいくかが重要なポイントになると思います。

今年は、グリーン鋼材の本格販売スタートの年。グリーン鋼材が市場の中でどのように評価されていくのか、注目していきたいと思います。

Q 今後にむけて国内鉄鋼メーカーが備えておくべきこととは? 

A 中長期的には鉄鋼生産量が急増する東南アジアへの対応

中長期的には海外市場の変化にどのように対応するかが重要だと思います。現在、東南アジアでは、特に中国系企業による製鉄所の建設が進んでいます。近い将来には新たに6000万トン以上の鉄鋼生産能力が東南アジアで増えるといわれています。

東南アジアで生産される鉄鋼は汎用鋼であり、それほど品質が高いわけではありません。しかし、供給量が増えると需給バランスが変わり、価格への影響も避けられません。それゆえ、東南アジアで急増する分の鉄鋼生産量にどう対応していくか。それが中長期に国際的にみた重要なテーマとなるでしょう。

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