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2023.1.27
製造業において、製品や工程の品質を確保するためにFMEAは欠かすことができない重要なツールです。しかし、FMEAの定義や効果、実際に自身がFMEAを作成する際にどのような点に注意すればいいのか、知りたい人も多いでしょう。
この記事では、ISO9001やIATF16949におけるFMEAの概要、FMEAに期待される効果、FMEAの作成に取り組む際の注意点について解説します。
目次
FMEAはFailure Mode and Effects Analysisの頭文字を取った略称で、日本語では故障モード影響解析とよばれます。ISO9001やIATF16949の中でFMEAが扱われているため、FMEAの概要や位置づけを紹介します。
FMEAは、製品や工程の設計段階で活用する手法で、故障が生じた際にどのような問題に繋がるかを抽出・整理し、その影響を評価します。
例えばPCが起動しないなどの故障状態に至る基板の破壊や電源線の断線などを故障モードとよび、故障モードごとに発生した際の影響の大きさ・故障の発見のしやすさ・発生確率の観点で点数付けを行います。
この点数を元に、設計段階でどの故障モードを優先して避けるべきか、どのような処置を行えば重大な事象に至らないかを検討することが可能です。
FMEAは、海外の自動車メーカーや団体によって構成される国際自動車産業特別委員会であるIATFの規格IATF16949において、製品や工程の品質を確保するために重視すべき5つのコアツールの1つとして定義されています。これらのツールは互いに関連しているため、FMEAを適切に扱うためには、いずれのツールも理解を深めておくことが必要です。
また、IATF16949は品質マネジメントシステムにおける国際規格のISO9001をベースにして自動車関連の要求事項を追加する形で構成されているため、FMEAはISO9001においても重要な役割を担います。
具体的には、ISO9001の8.3.3項の設計・開発へのインプットにおいて、製品やサービスの性質に起因する失敗の起こりうる結果を明確にするために、活用されます。
FMEAは、その適用対象に応じて以下の3種類に分類できます。それぞれの目的や特徴について解説します。
工程(プロセス)FMEAは、製造工程において作業者が行う作業や管理といったプロセスとなる要素に着目して行うFMEAです。製造工程で発生する故障の原因や仕組みを追求することで、製造工程の改善を行い、品質を維持することを目的としています。
工程FMEAでは、製造工程で行われる作業を細かく分類し、それぞれの作業において生じるミスや故障に基づいて故障モードを抽出します。故障モードごとに影響を分析・評価し、必要に応じてミスや故障を防止、もしくは影響を低減するような対策を行うのが工程FMEAです。
設計(デザイン)FMEAは、製品の設計段階で行われるFMEAで、故障モードが製品に及ぼす影響を抽出し、潜在的な事故や故障を設計段階で予測・抽出するために行われます。各故障モードは、それによって生じる影響規模、発生確率、故障の検出確率の観点で点数付けを行い、重大な故障モードの発生を予防します。
従来は、故障モードごとに相対的な点数付けを行うことで優先順位付けを行っていました。しかし、FMEAの対象となる全故障モードの解析が完了しないと最終的な点数が確定せず、相対的な判断の基準があいまいになりやすいことから、近年は絶対評価で点数付けを行うことが増えています。
機能FMEAは、設計FMEAの一部として同時に実施されることもあり、製品を構成するハードウェアやソフトウェアが持つ機能に基づいて、FMEAを行います。一般的な設計FMEAに比べて粒度が細かくなるため、詳細な分析が可能です。
FMEAには、以下のような効果が期待されています。FMEAを作成するためにはかなりの時間が必要ですが、それ以上に大きなメリットが期待できます。
FMEAのもっとも大きな効果として、製品が潜在的に引き起こす可能性のある重大な故障の未然防止が挙げられます。FMEAで故障モードごとに付けたスコアが一定以上の場合に重大故障に分類され、スコアが目標値以下になるように設計的な対策を行うことが必要です。
スコアを下げるためには、その構成要素である影響の大きさ、発生確率、見つけにくさに注目する必要があります。
例えば影響の大きさであれば、以下のような取組が挙げられます。
製品の開発や製造工程の構築は、限られた人員と期間でこなす必要があります。そこで、重大ではない故障モードについては最低限の処置を行ったうえで、優先順位をつけて設計変更などを行う必要があります。
設計処置をするための優先順位付けには、FMEAを作成する際に各故障モードに付与したスコアを活用できます。
例えば、発生確率が低くても発生してしまったら影響の大きな項目を対策するために、影響の大きさだけに着目し、一定以上のものは優先的に対策を行うというのは、効果的な優先順位づけの一つです。
他には、総合スコアの大きさに応じて、優先順位を付ける方法が考えられます。さらに、単体での影響はそれほど大きくなくても、その故障モードに至る項目が多いものから、優先的に対策を行うというのも、有効な考え方の一つになるでしょう。
FMEAに期待される効果の一つとして、設計ノウハウの蓄積が挙げられます。FMEAシートには、製品や工程の故障モード、その影響や検出手段、スコアなど設計開発をする上で重要な情報が多数記載されています。
FMEAの作成を通して製品設計に関するノウハウを蓄積し、それをFMEAシートという形で残していくことが可能です。ノウハウの蓄積だけを目的とした資料を作成する必要がないため、効率的です。
ここで蓄積された情報は、従業員の教育に加えて類似製品や次世代製品を開発する際に役に立てられます。後からでは対策が難しい故障モードを避けるように基礎設計を行い、製品の品質を高めるために活用できます。
FMEAに取り組む際には、いくつかの注意点を押さえる必要があります。
特に、FMEAは時間がかかるため効率的に行う必要があります。そこで、人によるばらつきの排除や作業の重複を下げることを、常に意識して取り組むことが重要です。例えば、あらかじめ故障モードや検出手段ごとにグルーピングを行い、それぞれのグループごとに入力項目を自動化しておけば、記載漏れや人によるばらつきを排除できます。
重大な故障を取り除き製品の品質を確保するために、FMEAは欠かせない取り組みの一つです。FMEAの作成は、製品に関する幅広い知識や経験が必要なため、一筋縄ではいきません。目的に合わせて適切な種類のFMEAを選択し、この記事で紹介したような工夫をして取り組むことで、品質確保や性能向上に繋がるでしょう。
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