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2024.10.15
製造業において、品質の安定した製品を継続的に生産・供給するためには、設備保全は必要不可欠です。
しかし、保全業務を行うのは一般的に、設備の不具合や故障が明らかになったタイミングです。設備に不備のある状態のまま生産を継続していると、品質悪化や不良品の増加につながります。また、生産の長期停止などに陥ってしまう恐れがあります。
このような状況を解決するものとして、「予防保全」や「予知保全」が注目を浴びています。この記事では、予防保全・予知保全の定義とメリット・デメリットを紹介します。
設備の明確な不具合・故障が明らかになる前に保全を行う「予防保全」や「予知保全」に取り組む企業が増えています。
「予防保全」とは、あらかじめ保全を行うタイミングを決めておき、そのタイミング通りに保全業務を行う方法です。保全を行うタイミングの判断基準としては、設備の稼働期間や総稼働時間、総作動回数などが挙げられます。
「予知保全」とは、予防保全の一部であり、設備状況を常時監視することで設備に不具合が発生する兆候を察知し、察知した情報を元に保全業務を行うことです。不具合の予兆を基準に保全を行うことから「予兆保全」と呼ばれることもあります。
ここでは、予防保全のメリット・デメリットについて紹介します。
予防保全の代表的なメリットは以下です。
予防保全を行うことで、ダウンタイムを大幅に低減できる可能性があります。
ダウンタイムとは、故障などによって設備が稼働できず亡くなった結果生じる生産停止期間のことです。ダウンタイムが長ければ長くなるほど生産効率が悪化します。サプライチェーン全体に多大な影響を与えるため、短時間で解消する必要があります。
なお、故障が生じる前に保全を行うことによってダウンタイムは低減できます。
いつ保全業務が発生するかわからない状態では、保全業務に充てる人員を必要十分確保することはできません。しかし、人員を十分に確保できなければ、設備故障が重なってしまう場合にスムーズな保全ができずにダウンタイムが長期化してしまいます。
予防保全では、生産計画から保全業務のスケジュールを立案することであらかじめ保全を行うべきタイミングを明確化できます。人員・作業時間の調整が容易になるでしょう。
ダウンタイムの長期化を防ぎつつ、少ない人員で保全業務を担当することが可能になります。
製造業の多くの企業では、「安全」を第一に掲げています。労働災害につながるような設備故障や不具合は避けなければなりません。そのため、設備を「いかに故障を発生させずに、事故を防止するか?」という観点が重要となります。
予防保全を適切なタイミングで行っていれば、故障が発生する前に保全業務を行えます。設備故障による重大事故の発生も抑制できます。
設備メンテナンスにおいて全ての部品への保全を、高頻度かつ定期的に行うことは簡単ではありません。
そのため、故障の影響が波及してしまう部品への予防保全が重要となります。当該部品への予防保全を優先的に行っておくことで、設備の長寿命化を実現することが可能になります。
予防保全には、以下のようなデメリットがあります。
予防保全では、設備が故障する前に予防的に部品交換を行うため、実際にはまだ使える部品を交換してしまう場合があります。特定交換部品代だけを切り取って事後保全と比較すると、予防保全を行うコストのほうが高くなるでしょう。
予防保全の効果を検証する場合には、特定部品の状況だけではなく、設備全体や作業員への影響、ダウンタイムによるサプライチェーンへの影響なども考慮する必要があります。
予防保全では、保全を行う頻度が事後保全よりも増えるため、保全工数が増加する可能性があります。しかし、事後保全であれば故障の影響範囲の予測や部品交換や修理にかかる時間の見積もり等、長年の保全業務で培われた属人的な経験・ノウハウが必要となる場合が多く生じます。
そのため、保全業務を行う回数や工数だけを費用対効果を測る指標にするのではなく、行う保全業務の難易度や1回あたりの作業時間にも注目することが大切と言えます。
次に、予知保全のメリット、デメリットについて紹介します。
予知保全には設備の長寿命化や重大事故防止といった予防保全と同様のメリットがあります。以下では、予防保全にはないメリットを紹介します。
予知保全では、設備の故障につながる直接的な予兆に基づいて保全業務を行うため、予防保全よりも高い確率で故障が生じる前に保全業務を実施することが可能です。
予防保全ではバランス取りが難しかった設備の寿命ばらつきや使用環境の変化による早期故障、部品ロスの調整が容易になるため、ダウンタイムを効果的に回避できます。
故障の兆候に基づいて保全タイミングを調整することで、交換用の設備在庫を最低限に抑えられます。
例えば、入手しやすい交換部品の場合には故障の兆候が出てから発注することで在庫が不要になります。また、予知保全では予防保全よりも部品をより寿命に近いところまで使い切れる点も大きなメリットです。
予防保全ができずに故障が生じてしまった場合、1回あたりの保全業務に必要な時間は長くなりがちです。しかし、予知保全では故障自体を回避することが可能なため、1回あたりの保全時間を短縮することができます。
また、予防保全では故障の予兆が出ていない場合でもあらかじめ設定されたタイミングで保全を行いますが、予知保全では予兆が出るまで保全を行いません。結果として、他の保全方法よりも保全工数を削減できます。
予知保全は保全における魅力的な考え方ですが、主なデメリットは以下です。
予知保全を行う際には、設備の兆候をとらえる測定センサ、センサで取得したデータを解析して兆候を明らかにするアルゴリズム、データを蓄積してアルゴリズムを搭載するクラウドなどの準備が必要となります。
これらを扱うには、事後保全や予防保全を行う業務の中では身に着けられないスキルが必要となり、社内で対応することは簡単ではありません。
速やかに予知保全を導入し継続的に維持していくためには、ノウハウを持っている社外の人材活用はもちろん、必要人材の育成が必要不可欠です。
予知保全では、保全を行うきっかけとなるタイミングを明確にすることが難しいと言えます。
「どんなデータを取得すればいいのか」「取得データをどう分析すればいいのか」「分析結果からどうやって保全実施タイミングを決めるのか」などが課題として挙げられるでしょう。
タイミングが早すぎれば予知保全のよさを生かせませんし、遅すぎれば部品手配や作業調整が間に合わずに設備故障が発生してしまう恐れが生じます。
「設備が故障するモードごとにどのような予兆が出るのか」「予兆をどうすれば捉えられるのか」をあらかじめ考えて設備に関する専門知識とデータ処理の専門知識を用意しておく必要があります。
予防保全・予知保全に対して、生産設備に明らかな不調や故障が発生した際に行う保全のことを「事後保全(設備保全)」と呼びます。
事後保全では、問題が明らかになったタイミングで初めて行うため、設備や設備の構成部品を寿命まで使いきれる点にメリットがあります。
一方でデメリットとしては、故障の影響が大きい場合には修理完了までに長い時間を要するために、その期間生産がストップすること挙げられます。また、故障の程度や状態によっては、作業者や生産自体に対して大きな事故を引き起こしてしまう危険性があります。
近年は、サプライチェーンの最適化によって管理在庫の低減が進んでいる関係上、ひとたび生産が停止するとサプライチェーン全体に大きな影響を与えてしまいます。このことは大いに考慮しておきましょう。
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